昨今、クイズ番組『東大王』(TBS系)が人気だったり、子供4人を東大理IIIに送り込んだ「佐藤ママ」が注目されたりもする。その一方、官僚の不祥事では東大卒のエリートが続々と登場する事態もあった。何かと注目される東大卒だが、「とりあえず東大に行っておけばいいんじゃない?」と言うのは、ネットニュース編集者の中川淳一郎氏だ。同氏は東大卒ではないが、過去に2年間ほど、東大の寮に住んだ経験を持つ。以下、中川氏の考察だ。
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かつて、堀江貴文さんが「東大よりブランド価値が低くて、授業料の高い大学にいく意味はない。そういう意味で東大のコスパはものすごく高い。日本のマジョリティたるマイルドヤンキーにとっては東大と慶應のブランド価値は天と地程の差がある」とツイートしました。
さらに、「では、東大以外の大学に通ってる大学生に言える一言ってありますか?」と質問され、「はやくやめた方がいいね。金の無駄」とまで言いました。なんとなく堀江さんの言いたいことって分かるんですよ。この時、案外納得してしまった自分がいました。堀江さんが言うところの「ブランド価値」は、日体大やら青山学院大学駅伝部といったスポーツの名門にはあるでしょうが、スポーツ以外の人生を送るにあたっては、正直東大以外は大したことないな、と思います。
だからこそ、『東大王』のようなテレビ番組が成立するし、佐藤ママだって注目される。「慶応義塾大学法学部に4人の子供を送り込んだ山田ママ」というのが登場したとしても、確かにすごいですが、佐藤ママに勝てるわけがない。理IIIという日本最高峰の佐藤ママに次ぐ教育ママを発掘するには文系最高峰の東大文Iに4人を送り込んだ田中ママ、というぐらいでなくてはもはやインパクトは薄いでしょう(それでも理IIIの4人には敵わないと思いますが)。
堀江さんの場合は、著書や普段のSNSでの発言を読む限りでは、自身の力で生きていくことこそ重要と考えているでしょうから、東大に入れなかった場合は技術を身に付けるなり、起業するなどする方がいいということでしょう。一部上場企業のサラリーマンになる場合は、MARCH以上の大学に行っていればそれなりになんとかなる面もあるので「その程度で満足するのであれば、大学には意味がある」と主張したい方もいるでしょう。でも、正直大卒であることが採用の条件にあること自体が古くないか? という主張やら、そもそも大企業に入ることが幸せに繋がるのか? という疑問も出ています。
実際問題として、東大出身者の頭の良さは学生時代からも、社会人になって21年経った今も感じることは多いです。もしかしたらこれこそが「東大バイアス」であり世間が東大に対して抱くブランド価値なのかもしれません。しかしながら日本最高峰の大学である東大出身者は、とにかく一旦入学した後の選択肢が他の大学よりも多いと感じられます。
堀江氏は東大を中退していますが、中退理由については「入学しただけで表面的な価値を獲得したからさ。あとは用済み」と述べました。また、同氏は過去にヒッチハイクをした際、東大の学生証を見せただけで相手が安堵し、東大がもたらす価値について「とんでもないものを手に入れた」と感じたといいます。キャリア官僚で出世を目指すのであれば、最低限、東大を「卒業」する必要はありますが、堀江氏のように起業家になるのなら、とりあえず「東大に入った」という事実があれば十分でしょう。
そんな起業家はさておき、とにかく東大生って選択肢が多いんですよ……。多分それは世間が東大生を特別扱いしていることに加え、なんだかんだいって、開成や桜蔭、灘など大量に東大生を輩出する名門高校出身の選ばれし者や、全国の進学校の上位数名が集う大学という空気感が、たぶん他の大学とは違う。
大学に来なくなる学生が続出したり、試験の前は「シケプリ」(試験対策プリント)を共有してラクをしようと考えているものの、彼らは「とにかく東大卒業という肩書があればいい」という合理的な判断をしています。周囲を全国トップクラスの頭脳を持った者たちに囲まれ、それなりの知的な刺激を受け、いざ就活戦線へ。
それも、すべて「東大に入学するだけの“勉強”分野での圧倒的成功体験」がもたらしてくれるものです。私の知り合いの東大出身者を見まわしてみると、大企業や人気企業に就職し、着実に出世している人はうじゃうじゃいます。そして、それ以外で見れば、コンサルティング会社でキャリアをスタートさせてから、「プロ社長」として外資系企業の日本法人の社長の座に次々と就いていく人もいます。あとはフランスに居を移し、何やら儲かってるらしい人も。
もちろん、「お前、東大なのに使えないな」などと言われてバカにされている人も何人かいますし、社内で出世していないことについて「オレは東大出身なのに出世していない。ウチの会社はバカな慶應閥だから、グヌヌ」と言う人もいる。しかしながら、とりあえず大学に入った後、もっとも多くの選択肢が与えられているのが東大生でしょう。そう考えれば、子供を大学に入れたいと考えるのなら、文系ならとりあえずは東大に入れることを考え、もしも受かる見込みがなかったら専門学校に行かせたり、職人の下で修業を開始したり、仲間と会社を作ってしまう、なんてことを18歳の段階で決めさせてもいい。
「○○大学に行ったから一生涯の恩人・友人に会えた」という反論もあるでしょうが、そうした「恩人・友人」は、同一人物とまではいわずとも大学に行かなくても会えるものです。少なくとも東大に入れなかった段階で、「それ以外の大学」「その他大勢」と乱暴に分類されてしまうリスクってものが存在します。ヘンな話ですが、大学に行かないことで、東大という最強ブランドと戦わないで済む人生になるんですよね。